交流分析とは|4つの基礎知識を解説【自我状態・人生態度・ストローク・対話分析】

今回は、カウンセリングで用いられる交流分析(TA)という心理療法について、自我状態・人生態度・ストローク・対話分析といった基礎知識を考え方と共にまとめて紹介します。

心理学について勉強中の方やこれからカウンセラーを目指すという方、あるいはセルフカウンセリングなどをするうえでどういった手法があるのか学びたいという方は、ぜひ参考にしてください。

交流分析とは

交流分析は、人間関係やコミュニケーションの問題に具体的な指導を行い、問題行動を改善していく心理療法です。

「人が抱えるほとんどの悩みは人間関係が原因だから、人間関係がうまくいけば悩みの大半は解決するはずだ」と考えた、精神科医エリック・バーンによって1950年代に提唱されました。

心理療法として確立した年代は古いですが、現代でもカウンセリング現場で用いられることが多く、7つの要素をうまく活用して、クライエントの抱える問題を解決していきます。

交流分析はロジャーズの提唱した来談者中心療法とはまったく異なり、指導的側面が強いのも特徴です。

交流分析をもとに作られた「エゴグラム性格診断テスト」のほうが、聞いたことのある方も多いかもしれません。

交流分析の基礎知識

続いて、交流分析に取り組むにあたって、必須となる基礎知識を押さえておきましょう。交流分析を進める軸・基盤には、「自我状態」「人生状態」という大きく2つの考え方があります。

自我状態:人と関わるときの思考・感情・行動のクセや傾向

自我状態とは、人と人が関わるときの考え方・感じ方・行動の仕方のことで、交流分析ではこれをP・A・Cの3種類のカテゴリーに分類します。

3種類の自我状態
  • P(Parent):「親」の影響を強く受け継いだ思考・感情・行動
  • A(Adult):今ここで起こっている状態に直接反応している「成人」の思考・感情・行動
  • C(Child):「子ども」のころと同じような思考・感情・行動

そして交流分析をもとに考案されたエゴグラム性格診断では、PとCをそれぞれ2つのカテゴリーに分け、CP・NP・A・FC・ACという計5つのカテゴリーに分類することで、より細かい分析を可能にしました。

エゴグラムの5種類の自我状態
  • CP:「支配的な親」「批判的な親」「父親」「厳しい私」の自我状態
  • NP:「養育的な親」「援助的な親」「母親」「優しい私」の自我状態
  • A:「理性的な大人」「考える私」の自我状態
  • FC:「天真爛漫な子ども」「自由な私」の自我状態
  • AC:「従順な子ども」「合わせる私」の自我状態

「まるで多重人格みたい」と思うほど、自分自身の考え方が時と場合によって違ったことはありませんか?それが、自我状態による違いです。

CP(Controlling Parent):「支配的な親」「父親」の自我状態

正義感・道徳心・責任感・良心などを大事にする反面、批判的で価値観を押し付ける傾向がある。

NP(Nurturing Parent):「養育的な親」「母親」の自我状態

思いやり・寛容・受容・共感・親切などを大事にする反面、過保護で相手の自立を妨げる傾向がある。

A(Adult ego state):「合理的な大人」「理性的な大人」の自我状態

現実的・合理的・冷静・論理的に判断する反面、損得に敏感で打算的になったり、考えすぎて行動が伴わない傾向がある。

FC(Free Child):「天真爛漫な子ども」の自我状態

直感力・創造性・表現力などに優れ人間味がある反面、わがままで身勝手な印象を与える傾向がある。

AC(Adapted Child):「従順な子ども」の自我状態

協調性・忍耐力・奥ゆかしさ・礼儀正しさに優れ自分を集団に合わせられる反面、対人関係でストレスを感じやすく限界になると癇癪を起すといった傾向がある。

人生態度:自己や他者に対する基本的な態度

人生態度は、親をはじめとする大人と深く関わり合う中で学んだ自己や他者に対する基本的な態度のことです。

人生態度は3~7歳くらいに出来上がると言われていて、この時期の子どもへのかかわり方が、そのまま子どもが大人になったときの対人関係形成力に大きな影響を与えると考えられています。

人生態度には、「自己」と「他者」、「肯定」と「否定」の2×2=4通りの組み合わせがあります。

4種類の人生態度
  • 自他肯定「私はOK、あなたもOK」
  • 自己肯定・他者否定「私はOK、あなたはOKでない」
  • 自己否定・他者肯定「私はOKでない、あなたはOK」
  • 自他否定「私はOKでない、あなたもOKでない」

人生態度は自分自身でもある程度判別がつきますが、具体的にどの態度が強いかは、OKグラムという診断で判断することも可能です。

自他肯定「私はOK、あなたもOK」

自他肯定の「私もあなたもOK」という態度は、交流分析が目指す理想的な人生態度です。

自他肯定の強い人は、自分自身をありのままに受け入れることができていて、他者も同じように大切することができる状態にあります。

自己肯定・他者否定「私はOK、あなたはOKでない」

自己肯定・他者否定の態度が強い人は、他者よりも自分のほうが勝っていると考えているため、「どうして自分ばかりこんな目に」と不当な扱いを受けているように感じてしまいがちです。

イライラすることも多く、攻撃的な傾向も見られます。

自己否定・他者肯定「私はOKでない、あなたはOK」

自己否定・他者肯定の態度が強い人は、他者よりも自分のほうが劣っていると考えているため、「自分は何をやってもだめだ」という劣等感に苛まれています。

心配事や後悔が多く、「あの人に比べて自分はなんてダメなんだろう」と他人と比較して物事を考えてしまいがちです。

自他否定「私はOKでない、あなたもOKでない」

自他否定の態度が強い人は、人生に一切価値はないと考え、無気力や恐怖、絶望感などによって自分の殻に閉じこもってしまいがちです。

他者から愛情を注がれても、「自分なんかに愛される価値があるわけがない」「他人に愛情を注ぐような人がいるわけがない」といった否定的な感情から受け入れることができません。

ストローク:心の栄養。「他者の存在を認める言動」のこと

ストロークは、わたしたち人間が生きていく上で必要不可欠なもので、その不可欠さから交流分析では「心の栄養」と表現したりもします。

ストロークには大きく分けてプラスとマイナスの2つの種類があり、プラスのストロークが豊かな人間関係を育むのに役立つのに対し、マイナスのストロークは人間関係をこじらせてしまう原因となります。

プラスストロークの例
  • 身体表現:手をつなぐ・なでる・抱きしめる
  • 言語表現:励ます・褒める・慰める
  • 非言語表現:うなずく・微笑む・見守る
マイナスストロークの例
  • 身体表現:殴る・ける・ぶつかる
  • 言語表現:悪口を言う・罵倒する・けなす
  • 非言語表現:見下す・睨む・軽蔑する

ストロークの法則:マイナスのストロークすら求めてしまう悪循環

人間は基本的にマイナスのストロークよりもプラスのストロークを求めますが、ストロークは生きていく上で必要不可欠であるため、ストロークそのものが不足している状態ではマイナスのストロークであっても欲してしまい悪循環に陥ってしまいます。

これをストロークの法則と言います。

参考交流分析理論より;「ストローク論」

対話分析:問題を引き起こす交流パターンを見つけて改善を促す

対話分析(交流パターン分析)とは、自我状態をもとに人の交流を図で表したもので、そこから問題を引き起こしていると思われる交流パターンを見つけ出して、改善を促していくことを目的としています。

分析していく流れと交流パターンについては、次の通りです。

対話分析の流れ
  1. まず自分と相手が、互いにP・A・Cの自我状態を持っていると考えます
  2. そしてどちらかが、P・A・Cに基づくストロークを、相手のP・A・Cのいずれかにめがけて投げかけます
  3. 受け取る相手もまた、P・A・Cに基づくストロークを投げ返すことで交流していきます
  4. このとき、②と③が噛み合った自我状態の場合、スムーズに交流することができます(相補的交流)
  5. しかしこのとき、②と③の自我状態が噛み合っていないと、交流は行き違ってしまいます(交叉的交流)
  6. また、②と③で表面に現れている自我状態と裏にある自我状態が噛み合っていないと、本心を隠した交流になってしまいます(裏面的交流)
  7. ⑤や⑥のように、交叉的交流・裏面的交流になってしまっている交流パターンを見つけ出し、それらを相補的交流になるよう働きかけていく、というのが対話分析の一連の流れです

参考対話分析|獣医療をひも解く心理学

相補的交流:噛み合った自我状態でのストローク

相補的交流では、互いに自我状態と噛み合ったストロークを交換することができているので、対話分析における図に照らし合わせたときにベクトルが交差することがなく、まっすぐなベクトルが並びます。

相補的交流には3×3=9通りあり、それぞれに特徴を持っています。

9通りの相補的交流
  • P⇒P:対等な立場で称賛・批判する場合の交流パターン
  • P⇒A:理性に向けて述べられた意見に対して、理性的に反応する交流パターン
  • P⇒C:叱咤・命令・励ましなどに対して、素直な気持ちで反応する交流パターン
  • A⇒P:自尊心に配慮した意見に対して、素直に答える交流パターン
  • A⇒A:対等な立場で情報交換したり、質問したり、挨拶するといった日常的な交流パターン
  • A⇒C:相手の気持ちに配慮した対話に対して、素直に答える交流パターン(傾聴の交流)
  • C⇒P:敬意を払った呼びかけに対して、上から素直に反応する交流パターン
  • C⇒A:率直な思いや気持ちに対して、思いを受け止めつつ冷静に反応する交流パターン
  • C⇒C:対等な立場で素直な気持ちを伝えあう場合の交流パターン

交叉的交流:噛み合っていない自我状態でのストローク

交叉的交流では、互いの思いとは異なる噛み合わない自我状態でストロークを送り合うため、図に照らし合わせた時にベクトルが交差するか、あるいは平行になりません。交叉的交流は数が多くリストアップするのは難しいため、ひとつの例を挙げて解説していきます。

例えば子どもが思春期を迎えた親子において、親が「早く宿題をやっておきなさい」などの指示を出したとしましょう。このストロークはP⇒Cを意識したものです。

これに対して、思春期を迎えた子どもは「提出は明後日だから今日はまだやる必要がない」と返答をしました。これは、根拠に基づき対等な立場で返答した理性的な会話です。つまりA⇒Aのパターンと言えます。

しかし親は子どものCという自我状態に投げかけたつもりなので、その返答がCからのものであると思い込んでしまい、「感情的に反発している」と受け取り「いいから早くやりなさい」などと強引に強制してしまいがちです。

これに対し子どもは子どもで、その内容の強引さや理不尽さよりも、A⇒Aのつもりのストロークを無下にされ「対等に扱われていない」ことに衝撃を受けたりします。

今回挙げた例はいわゆる「反抗期」によくみられるパターンです。このパターンは親子に限らず、上司・部下などにおいても似たような構図がよく見られます。

裏面的交流:「本音」と「建前」が存在する状態のストローク

裏面的交流は、表面上のストロークとは別に、隠された本音のストロークがある交流パターンのことを言います。

例えば、表面上は頼みごとを快諾しながら本心では「なんで自分がこんなことを」と納得していなかったり、表面上は相手を褒めたたえているのに本心では微塵もそんなことを思っていなかったり。

ただ裏面的交流には、悪意があって本心を隠している交流パターンだけではなく、相手の苦しみや悲しみを和らげるために、善意を持って意図的に本音を隠している交流パターンも含まれます。

前者の、利己的に相手を利用・操作しようとして本心を隠す交流パターンのことをゲームと呼び、このゲームを類型化して分析に用いるゲーム分析という考え方もあります。

以下は、ゲーム分析において想定されるゲームの一例です。

ゲーム分析において想定されるゲームの例
  • 「はい、でも」:指示や援助を求めるが、いざ助けが得られると「はい、でも」という反対意見を述べるゲーム
  • キック・ミー(私を嫌って):挑発して相手の嫌悪や怒りを誘発するゲーム(自己否定・他者肯定の人生態度の確認)
  • 仲間割れ:意図的に悪口などを伝達して、自分以外の人同士による喧嘩・対立・嫌悪といった仲違いを引き起こそうとするゲーム(自己肯定・他者否定の人生態度の確認)
  • あなたのせい:自分の行動に対する責任を取らず、失敗や問題の原因をすべて他人の環境のせいにするゲーム
  • 大騒ぎ(ひどいもんだ):自分の現状を「こんなにひどい状況だ」と大袈裟にアピールして、同情や関心を集めようとするゲーム
  • 粗探し:人の些細なミスや失敗、欠点などの粗を探し出して非難するきっかけにしようとするゲーム
  • 苦労性:役割や仕事を引き受けすぎて過大な責任を背負い込み、自分を追い込んだ結果疲労してしまうゲーム
  • あなたのため(世話焼き):教育熱心な親・上司・先輩などが、下の者に対して世話を焼くことで無意識のうちに支配下に置こうとするゲーム

特に最後の「苦労性」と「世話焼き」に関しては、わたし自身よくやってしまいがちなので、常々気を付けています……。

まとめ:交流分析は相補的交流により人間関係の改善を目指すもの

今回の内容を改めてまとめます。

交流分析とは、人間が抱える悩みのほとんどは人間関係によるものと考え、自我状態、人生態度などに目を向けて、 交流のパターンを矯正することで問題行動を改善していく心理療法です。

交流分析では、人と人がストロークを送り合うことによって交流し、この交流には、自我状態や人生態度によって分類されるいくつかのパターンがあると考えます。いくつかの交流パターンとは、相補的交流・交叉的交流・裏面的交流の3つです。

相補的交流は、自我状態がお互いに噛み合っている理想的な状態。交叉的交流は、自我状態が噛み合っていない行き違った状態。裏面的交流は、本心が意図的に隠された状態のこと。

そして交叉的交流と裏面的交流を、同じく自我状態や人生態度といった分類から解きほぐしていき、相補的交流にすることを目指すのが交流分析です。

おわりに

今回は交流分析の基本中の基本である用語や考え方についてまとめましたが、参考になりましたでしょうか。

なお今回の内容は、可能な限り参照文献などを提示し、情報の確実性には配慮しておりますが、自分自身の勉強も兼ねてまとめた情報のため、もしも誤りや気になる点などありましたらご一報いただけると幸いです。