今回は、自己効力感の提唱者であるバンデューラが発表した論文と、その協力者たちの論文をまとめた「激動社会の中の自己効力」をもとに、自己効力感に関する基礎知識を解説します。
さらに本稿ではそれを発展させて、「自己効力感を高めるためにできる4つのこと」について筆者なりの解釈を付け足しています。
自己効力感について、端的に理解したいという方はぜひ参考にしてください。
自己効力感とは
自己効力感(self-efficacy)とは自信の一種で、わかりやすく言うなら「自分はこの目標を達成することができる」と信じる力のことです。
厳密には「信じる力」ではなく、「自分の可能性を認知する力」のことで、自己可能感とも訳されます。
スタンフォード大学のアルバート・バンデューラが提唱した心理学における概念で、「自信」という感覚を因数分解して心理学的に解明しようとするもの、と言ってもよいでしょう。
自己効力感が高い人と低い人の違い
自己効力感が高い人は、「できなかったらどうしよう」とくよくよ悩むことはあまりありません。
それによって、良い結果に繋げるための最短の行動をとることができ、結果的に目標の達成度合いも高くなります。
一方、自己効力感が低い人は、「どうせ頑張っても達成できない」と悩んでしまう傾向があります。
そして悩んでいるうちに時間が足りなくなったりチャンスを逃したりして、結果を出すことができずさらに自信を失う、という悪循環に陥りがちです。
- 自己効力感が高い人:悩まず行動でき、目標達成して結果を出しやすい
- 自己効力感が低い人:悩んでしまい行動に移せず、結果につながらない
自己効力感が利用されるシーン
高い人・低い人の違いからも分かる通り、自己効力感を高める最大のメリットは目標を達成しやすくなることです。
この特徴を利用したものとして、例えば下記のような事例が挙げられます。
ビジネス:評価制度や目標水準を調整することで効力感を高める
自己効力感やチーム効力感を高めるため、OKRのような「目標設定が個人に委ねられた評価制度」を導入するなどといった取り組みが活発になっています。
医療・看護:効力感向上により中毒症状・生活習慣改善に繋げる
アルコール依存症やニコチン依存症などの中毒症状を始め、「生活習慣の改善」が必要な病気の治療には、患者自身の自己効力感が鍵となります。
また近年は治療よりも予防の重要性に注目が集まっていることもあり、臨床の現場においても自己効力感を高めるアプローチをすることで、本質的な解決を目指す傾向があります。
学業:学習・勉強の能力や効率だけが成績に繋がるわけではない
自己効力感に関する研究のうち、学業成績を判定したものでは、例えば同程度の学生であっても自己効力感の有無によって成績に影響を及ぼすということがわかっています。
また自己効力感の発達には、適切な助言・励ましといったサポートが有効であることも判明しており、効率のよい学習法を伝えることだけが学業成績に寄与するわけではないことが、自己効力感の研究から学ぶことができます。
自己効力感に影響を及ぼす4つの要因
ここからは、自己効力感に影響を及ぼす4つの要因について解説します。
制御体験:自分が成功に導いた(=コントロールした)という体験に学ぶ
自己効力感に最も強く影響を及ぼすのが、制御体験です。
頑張って努力して成功を得る、という体験をすると、次もまたできるという自信に繋がります。
反面、「頑張ったのに失敗した」「自分のせいで失敗した」という体験をすれば、自己効力感は低下します。
なお、制御体験は成功体験と表現されることもありますが、成功すればなんでもいいというわけではありません。
「自分が成功に導く」という実感が必要不可欠である点に要注意です。
仮に所属していたチームが成功を収めたとしても、その成功に自分が関与した実感が薄ければ、その体験は自己効力感をもたらしてはくれません。
代理体験:モデリングによって自分に近い他者の成功体験に学ぶ
代理体験とは、自分の代わりに誰かが成功した体験を通して、「あの人にできるなら自分もできるかもしれない」と感じられる感覚のことです。
代理体験において特に重要なのがモデリング。
自分に近い境遇や能力を持った人の成功は、より強い代理体験として作用します。
一方で、近い境遇や能力を持った人の失敗も同様に強い代理体験として作用してしまうので注意が必要です。
また同様に、遂行している業務などがどんなに似通っていても、その人を近い存在と認知できなければ代理体験としては機能しません。
社会的説得:他者介入により得られる効力感のブースト
社会的説得とは、口頭での励ましなどといった他者から目に見える形で行われる介入行動のことです。
「あなたならできる」などといった形で能力へ一定の信頼を示されることで、対象者は自己効力感を得ることができます。
ただしそれが無根拠・非現実的である場合はほとんど意味がなく、それどころかかえって信頼を失いかねません。
また社会的説得のみで自己効力感を発達させることは現実的ではない、とバンデューラ自身も明言しています。
生理的感情的状態:効力感は身体状態や気分に左右されるものである
生理的感情的状態とは、平たく言えば体の調子です。
自己効力感はその日の気分や体調にも大きく左右されるもので、分かりやすいところではアルコールを摂取すると気が大きくなる、などもこれに該当します。
気分がよいときや体調がよいときには不思議と何かできそうな気になりますし、反対に悪いときは何をやってもうまくいかない気になった経験は誰しもあるのではないでしょうか。
自己効力感を高めるためにできる4つのこと
では続けて、自己効力感に影響を及ぼす4つの要因から考えられる自己効力感の高め方を具体的に提示します。
制御体験は積み重ねが大事。「やったことはないができそう」なことへ取り組む
制御体験を通して自己効力感を発達させるためには、すでにできること、習慣的にやっていることだけをやっていてもあまり意味がありません。
習慣的にやっていることをやるとしても、少しだけ背伸びをした目標を設定するなどして、まだやったことがないけれどできそうなことへ取り組み成功する、という制御体験の積み重ねが重要です。
例えば普段から料理をする習慣があるなら、作ったことがないレシピにチャレンジしてみるとか。
ジョギングをする習慣があるなら、普段は5km走るところをたまには10km走ってみるとか。
ただし、チャレンジしした結果が失敗に終わっては意味がありませんし、それが「なぜうまくいったか」が説明・再現できないのでは効果が得られないので、きちんと計画を立てることが必要です。
料理なら、レシピを探して買い出しをするところから手を抜かず、面倒な下ごしらえもちゃんとやる。
ジョギングなら準備運動を欠かさず、たまの10kmにむけて事前にならし運転として近い距離を走っておくなど、計画から実行までを丁寧に行ってみてください。
代理体験はモデリングが肝。自分に近い集団へ飛び込もう
代理体験を効果的に活用するためには、精度の高いモデリングが肝になります。
自分に近く、それでいて数歩先を行くような境遇や能力を持った集団に飛び込むことで、そこで得られたあらゆる体験を代理体験として取り込んでいくことができるでしょう。
ただし気を付けたいのは、その集団や個人に向上心がなければ真逆に作用する可能性があるという点です。ネガティブに作用しそうな場合は、早めに判断しましょう。
社会的説得は継続的かつ本心からの言葉であることが重要
社会的説得を効果的に活用するなら、その頻度と内容に注意を払う必要があります。
特に社会的説得は、ほぼ唯一の他者が与えられる自己効力感であると同時に、伝え方次第では他者の自己効力感を削ぐことにも繋がるとても扱いの難しいものです。
本格的に運用するならば、例えば社会的説得のための時間を明確に設け、人によって伝え方に差が生じないようパターン化するといった対策が最低限求められるでしょう。
ただそこまで考えるまでもなく、普段から「表面的な言葉には意味がない」と知り、「あなたならできると思う」「なぜできると思うのか」を本心からきちんと説明する意識を持つだけでも、良い方向へ作用するはずです。
生理的感情的状態に注意し、できないときは無理に挑戦しないのもひとつの手
生理的感情的状態によって自己効力感が影響を受ける、ということをまずはきちんと認識しましょう。
それはつまり、「なんとなくできそう」なときと「なんとなくできなさそう」なときがあることは自然だ、ということです。
気分によって選択を変えるなんて……、と真面目な人ほどしり込みしてしまうかもしれませんが、できないときはできないと割り切り挑戦しないのもとても大切なことです。
自己効力感は失敗によって低下してしまいますから、高く保つためには無用な失敗で下げない工夫も有効です。
まとめ
以上、「激動社会の中の自己効力」の内容を元に、自己効力感の基礎知識について解説するとともに、少し発展させた「自己効力感の高め方」に関してまとめました。
自己効力感の概要について理解するうえで、少しでもお役に立てれば幸いです。自己効力感に関するさらなる詳細が気になる方は、ぜひ書籍を参照してみてください。
お住いの近くに図書館がある方は、蔵書も検索してみることをおすすめします。