アンカリング効果とは|具体例からシーン別の使い方まで

この記事では、行動経済学で言われる「アンカリング効果」を、マーケティング・仕事・恋愛などのシーンごとに活用する使い方について解説します。

アンカリング効果を使うことで、商品や自分自身をよりよく見せることが可能です。心理学をうまく使いたいという方はもちろん、反対にそういった心理効果に惑わされたくないという方も、ぜひ参考にしてください。

アンカリング効果とは

まずは、アンカリング効果に関する基礎知識から解説します。

あくまでも基礎知識なので、「早くアンカリングの使い方が知りたい!」という方は読み飛ばしても大丈夫です。

基準となる情報(アンカー)を操作することで思考を束縛する

アンカリング効果とは、先に仕入れた情報にその後の意思決定が引っ張られてしまうという認知バイアスの一種です。

情報がインプットされる順番によって、私たち人間はそのものに対する印象が大きく変わってしまいます。

具体的には、「定価2万円のコート」よりも、「定価10万円から80%OFFの2万円のコート」のほうがお得に感じる、といった具合です。

売り値が同じなら同じ価値のはずなのに、「定価10万円なら定価2万円のコートよりいいものだろう」と考えてしまうんですね。

アンカリング効果はマーケティングで活用されることが多い

アンカリング効果は、キャッチコピーやセールスなど、マーケティング方面で活用されることが多い認知バイアスです。

そのため、活用例をもとにうまくアンカリング効果を利用することができれば、売り上げの改善などが見込めます。

また消費者目線でもアンカリング効果を知ることには大きなメリットがあります。

先ほどの例のように、アンカリング効果を利用して商品を購入してもらおうという試みはそこら中に溢れています。

そのため、アンカリング効果の実例などを知識として持っておくことが、より冷静な意思判断に繋がるのです。

アンカリング効果と似た心理効果「フレーミング効果」との違いは?

アンカリング効果と似た心理効果として、フレーミング効果というものもあります。

どちらも情報に手を加えることで印象を操作する点は同じですが、異なるのは操作する情報の要素です。

アンカリング効果は「情報の順番」で操作するのに対し、フレーミング効果は「表現方法」を変えることで印象を操作します。

先ほどの例で行くと、

  1. 定価10万円の20%の値段のコート
  2. 定価10万円の80%OFFのコート

どちらかというと②のほうが、お得感、あるいはインパクトがあるように感じられないでしょうか。

この辺りに関しては、「ファクトフルネス」という本が非常に分かりやすく、説得力を持って教えてくれています。

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アンカリングの10の使い方

ここからは、マーケティング・仕事・恋愛という3つのシーンに分けて、アンカリングのシーン別活用法を解説します。

マーケティングシーンでの使い方

マーケティングでアンカリングを活用する際は、目的をはっきりさせておくことが重要です。

売価と参考情報を並記。「半額」「○○円OFF」「希望小売価格」など

マーケティングにおけるもっともポピュラーなアンカリングの使い方が、売り値とあわせて価格の参考となる情報を併記するというものです。

「半額」「1000円OFF」「希望小売価格」など、あらゆる情報がアンカーとして機能し、お得感を演出してくれます。

ただしこの方法は、あくまでも事実がベースになっていなければいけません。

例えばもともと2万円の商品に対して、「10万円の80%OFFの2万円でご提供」などと記すことは、二重価格表示となり景表法違反になります。

参考二重価格表示とは[消費者庁]

商品単価を上げたいときにはもっとも高い商品を目に付く場所へ

今度は飲食店を例にとって考えてみましょう。

例えば高級フレンチなどで、商品ごとの単価が高い場合です。

こういうお店では、メニューの最上部に最も高い商品をアンカーとして配置することによって、その先にある商品を相対的に安く見せることができます。

こうすることで、例えば「炭酸水1杯1000円」という価格を単体で見た場合よりも、心理的な障害を減らして頼みやすくする事ができるのです。

総額を上げたい(たくさん買ってもらいたい)ときには安い商品を目に付く場所へ

同じく飲食店で考えてみましょう。

今度は、チェーン店の安い居酒屋の場合です。

こちらは単価が安い代わりに、たくさん頼んでもらう必要があります。

こういった総額を上げたいシーンでは、最も安い商品をアンカーとして目立つ位置に配置することで、「この価格ならいくら頼んでも安上がりだろう」というアンカリング効果を想起させることができるのです。

競合よりも高いサービス・安いサービスはその理由を明示する

あらゆる情報がアンカーとして機能するので、意図しない状況で発生するアンカリング効果も多々あります。

例えば高級レストランでワインを提供するときに、「半額」と打ち出して価格の安さをアピールすると、お得感よりも安っぽい印象が先行してしまう可能性があります。

特にワインのような相場がある商品の場合、相場に比べて安価すぎる商品は警戒心を生んでしまいます。

一方で、相場を知っていれば知っているほど「安価すぎる商品」に対して警戒心が生まれるのも確かです。

そのため、高くするなら高い理由を、安くするなら安い理由を明示することによって、信頼感を生み出すことを意識するとよいでしょう。

ワインの例なら、「生産者から直接仕入れているので安価でご提供できます」といった情報があれば、確かにお得感が伝わるだけでなく、信頼感まで伝えることができます。

ビジネスシーンでの使い方

続いてビジネスシーンでの活用法です。

スケジュールは「絶対に間に合う日程」で組む

スケジュールを組むときには、「最初に伝えた日程」がアンカーとなります。

そのため、「がんばればなんとかできそうな日程」ではなく、「絶対に間に合う日程」を最初にアンカーとして伝えることが重要です。

そうすることで、さらに早く間に合えば好印象を与えることができますし、万が一そこからさらに遅れたとしても、悪影響は最小限に抑えることができます。

これが、初めから「ぎりぎり間に合う」日程を伝えてしまうと、アンカリング効果が逆に働いてしまい、悪い印象を与えることになってしまうのです。

1回目のプレゼン機会では最初からクオリティを高めすぎない

提案資料にせよ、文書にせよ、画像にせよ、クライアントに提出する機会が複数回あるものを扱うときには、「最初からクオリティを高めすぎない」というのもアンカリングの使い方のひとつです。

これもスケジュールの話と近い考え方で、評価者は1回目の提出物を基準として2回目以降の提出物を評価します。

そのため、1回目から90点を狙いにいってしまうと、評価者がそれを60点や70点と判断した場合、さらに上のものでなければ満足してもらえなくなってしまうのです。

ただし、意図的に手を抜いたように見えてしまうのでは本末転倒ですし、他者のプレゼンが先にあった場合、それがアンカーとして機能することになります。相手にとって何がアンカーとなるかをよく考えましょう。

恋愛シーンでの使い方

最後は、恋愛シーンやパートナーシップを築くうえでのアンカリングの活用法についてです。

帰りの時間・到着時間は予定よりも遅く伝える

これは、ビジネスシーンでのスケジュールの組み方と同様ですね。

家に帰る時間や、待ち合わせ場所に到着する時間を伝える際に、多少遅めに伝えておくことで、「予定よりも早く着いた=急いできてくれた」という印象を与えることができます。

普段からぴったりの時間を伝えている人の場合、あえて遅い時間を伝えるのはだましているようで気が進まないかもしれませんね。

しかし、いつでも予定通りぴったりの時間に到着できるとは限りません。それに、余裕を持った時間を伝えたほうが相手にとってプレッシャーにならない、と考えることもできます。

合コン参加者の水準はあえて揃えない

「モテたいなら合コンに自分よりかっこいい・かわいい人を連れて行かないほうがいい」なんて助言を耳にしたことはありませんか。これもアンカリング効果を期待してのことですね。

ただし、アンカーとなるのが顔面偏差値ばかりとは限りません。

例えば学歴・年収・身長・スタイル・趣味特技……あらゆる情報がアンカーとして機能するでしょう。

だからこそ、合コンなどにおいてはあえて条件を揃えないことで、余計なアンカリングを発生させないというのもひとつの手です。

写真やメイクはあえて盛らない

初めて会う前に写真を見せ合うような関係性の場合、見せる写真は自分にとって「ちょっといまいち」と感じるくらいのものを選んでおいた方が無難です。

これは「芸能人を実際に見てみたらテレビのほうがきれいだった」などの心理に近く、会う前に見た情報がアンカーとして機能しているため。

初めて会う際のメイクや、あるいは普段しているメイクなども同様です。普段から勝負メイクを意識してしまっていると、いざというときにギャップが生まれません。

「いつもよりもきれい・かわいい」と思わせたいなら、普段は少し手を抜いておくくらいがちょうどいいんです。

自分の好み・価値観を知るのにも役立つ

アンカリング効果を理解することは、他人だけでなく自分の考え方の修正にも役立ちます。

特に恋愛においては、どうしても「自分が知っている人」と比べてしまいがちです。

昔付き合っていた人だったり、身近にいる友人知人だったり、家族など良く知る人だったり。なかには、応援しているアイドルとか、CMでよく見る芸能人などを比較対象としてしまう人もいるでしょう。

自分にもそんな傾向があるということを把握することで、ないものねだりのような理想像を抑制することができます。

まとめ

アンカリング効果は、「何がアンカーとなっているか」を考えることができるようになれば、あらゆるシーンで幅広く活用できる心理効果です。

一方で、認知を歪めたくないなら、自分自身が何をアンカーとしているか、あるいは誰のアンカリングに影響を受けてしまっているか、常に意識する必要があるでしょう。