「20%失敗する手術」よりも「80%成功する手術」のほうが、なんとなく手術を前向きに受けようと思える気がしませんか?この違いは、「フレーミング効果」という心理効果によるものです。
今回は、そんな印象操作に関わるフレーミング効果について、実験例をもとに3つの類型を解説します。
目次
フレーミング効果とは|印象を操作する心理効果
フレーミング効果とは、言葉や表現を換えることによって、内容は変えずに与える印象を操作する心理効果のことを言います。
フレームとは「認知の枠組み」のことを指していて、この枠組みを言葉の置き換えなどによって歪めることで、選択に与える印象を操作することができるのです。
なおフレーミング効果は行動経済学の用語で、うまく活用すると売上を劇的に上げられることから、マーケティングなどに用いられる傾向があります。
ポジティブフレームとネガティブフレーム
フレーミング効果には、「ポジティブ表現によるポジティブフレーム」と、「ネガティブ表現によるネガティブフレーム」の2種類があります。
ポジティブ表現は、「成功する・得をする・生存する」など。ネガティブ表現は、「失敗する・損をする・死亡する」など。
ポジティブフレームとネガティブフレームは、一概にどちらのほうがフレーミング効果を得られるといった関係性ではありません。
ケースバイケースで使い分ける必要がありますので、実験例や3つの類型なども参考にしっかり頭に入れておいてください。
フレーミング効果の実験例
フレーミング効果の効用については、細かく説明をするよりも実験例を見た方が早いでしょう。
実験①:乳がん検診の重要性をアピールするのに適切な表現は?
この実験は、米国ダートマス大学経営学部のブーナン・ケラー教授が行ったものです。
次の2つの質問のうち、どちらのほうが「乳がん検診の重要性をアピールすることができるか?」という内容で行われました。
- 早期に発見できれば、治療の幅が広がります
- 早期に発見しないと、治療の幅が狭まります
どちらのほうが重要性のアピールに繋がったと思いますか?
実験の結果は、②のほうが乳がん検診受診者数に繋がりました。
このケースでは、「発見しないと治療の幅が狭まる」というネガティブな表現のほうが、より危機感に繋がったと考えられます。
ただこれは反対のケース(ポジティブ表現のほうが選択される場合)も往々にしてあり、ここからわかるのはあくまでも「表現を変えると選択行動に有意な差が現れる」という事実です。
実験②:患者に手術を受けてもらうために適切な表現は?
続いての実験も、やはり医療分野における内容です。
こちらは米国ミネソタ大学のアレクサンダーロスマン博士が行ったもので、患者に手術を提案する際の表現方法に関するものでした。
今度は質問方法ではなく、手術の提案前に提供する死亡率データを2つ用意して差を確認します。
- 「600人中400人が死亡する」というデータを見せた場合
- 「600人中200人が助かる」というデータを見せた場合
手術の承諾率が上がったのは、②のポジティブ表現のデータを見せた場合でした。
念のため補足しますが、「600人中400人死亡」も「600人中200人生存」も表現は違えど意味は同じです。
しかし、こちらの場合においても、表現の違いが印象に影響を与えていることが分かります。
実験③:伝染病対策としてどの結果がもっとも好印象か?
3つ目の実験は、行動経済学者のダニエル・カーネマンと、心理学者のエイモス・トヴェルスキーが実施した伝染病の流行対策に関するものです。
伝染病の流行対策を講じた際に得られる結果として、どの表現の選択肢を好むかという内容。
- 200人が助かる
- 1/3の確率で600人が助かるが、2/3の確率で誰も助からない
- 400人が死ぬ
- 1/3の確率で誰も死なないが、2/3の確率で600人が死ぬ
①②は「助かる」という表現を用いたポジティブフレーム、③④は「死ぬ」という表現を用いたネガティブフレームになっています。
この実験で興味深いのは、①と②を提示した際には7割が①を選択する一方で、③と④では8割が④を選ぶという点です。
ポジティブフレームでは確実性のある(リスクのない)表現を好み、ネガティブフレームでは全か無かというリスクを伴う表現を好むという選好逆転を見せます。
フレーミング効果の3類型について
フレーミング効果は、次の3つのパターンに類型化することができます。
3つのフレーミングは、主に「何に影響を及ぼすか」によって分類されます。
- リスク選択フレーミング:リスクを取れるか
- 属性フレーミング:評価が上がるかどうか
- 目標フレーミング:説得を受け入れるか
リスク選択フレーミング:全か無かのリスクを取れる表現かどうか
リスク選択フレーミングは、先に示した実験の3つ目「伝染病の流行対策」のパターンです。
この実験結果では、ポジティブフレームでは「2/3の確率で誰も助からない」というリスクを避けているのにも関わらず、ネガティブフレームでは「2/3の確率で600人が死ぬ」という全く同じリスクを取ることができています。
また、リスク選択フレーミングには効果が弱まるケースもあります。
一度きりの選択においては上記の通りですが、複数回の選択が可能なギャンブルなどにおいては、ポジティブフレームであってもより大きな利益を求めてリスクを取ることが分かっています。
リスク選択フレーミングにおいて選好逆転が起こる理由は、プロスペクト理論によって説明することができます。
プロスペクト理論は、人間が見通しを立てる基準などについて説明した、行動経済学の中でも代表的な成果と呼ばれる理論です。興味のある方はぜひご覧になってみてください。
属性フレーミング:購入などの選択の決め手(評価)に繋がる表現かどうか
属性フレーミングは、もっともシンプルなフレーミング効果です。
典型例は消費者の選択行動に関わるもので、例えば牛ひき肉の品質について「脂質25%」と評するよりも「赤身75%」と表現したほうがより上質な印象を与えるというもの。
属性フレーミングでは、ポジティブフレームとネガティブフレームの関係性はかなり分かりやすくなっています。
それは、ポジティブな表現を用いると評価はより好ましくなり、ネガティブな表現を用いると評価はより好ましくないものになる、という具合です。
先ほどの実験例でいうと、②がこれに当たります。「600人中400人死亡」よりも、「600人中200人生存」のほうが好ましい評価に繋がるということです。
目標フレーミング:目標達成のための説得を受容できるかどうか
目標フレーミングは、説得的コミュニケーションの分野において注目されるフレーミング効果です。
行動したときのポジティブな結果と、行動しないときのネガティブな結果、どちらを強調したほうが説得に繋がるか、というもの。
さきほどの実験例でいうと、①乳がん検診の重要性をアピールするという実験がこれに当たり、実験結果に基づくならネガティブフレーム(早期に発見しないと~)のほうが説得に繋がったことになります。
これはネガティビティバイアスによるもので、利益よりも損失によって受ける苦痛を避けようとする本能が理由だと考えられます。
しかし目標フレーミングの難しいところは、ネガティブフレームを用いた方が効果的だと一概には言えないところです。
実験によっては目標フレーミング効果が現れなかったというものも多く、リスク選択フレーミングや属性フレーミングに比べると非常に不安定であることが分かります。
まとめ
一般的なマーケティングやコピーライティングなどで扱いやすいのは、属性フレーミングくらいでしょうか。
リスク選択フレーミングは、その選択が複数回チャンスがあればあるほど不安定になってしまいますし、目標フレーミングにいたってはそもそもの効果がかなり安定していません。
フレーミング効果を日常的に活用しようとする場合は、ネガティブ表現よりもポジティブ表現を心がける、程度にとどめておくことがまずは無難ではないでしょうか。
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