【想定の範囲内】後知恵バイアスの具体例・対策・活用法

結果を知ったときに「やっぱり!前からそうなるんじゃないかと思っていた」と感じたことはありませんか?

この心理的傾向のことを、後知恵バイアスと言います。後知恵バイアスにとらわれると問題の原因を見誤り、結果論で物事を判断してしまうため、本質的な解決ができなくなってしまいます。

そこで今回は、具体例をまじえて後知恵バイアスについて解説するとともに、対策や活用法なども紹介します。

自分だけでなく、周囲の人が物事の前後で意見が変わってしまい困っているという方は、参考にしてください。

後知恵バイアスとは

後知恵バイアス(Hindsight bias)とは、物事が起こってからそれが予測可能だったと考える心理的傾向のこと。

たとえばサッカーW杯の試合で、日本が勝つ確率を20%と予想していた人に、「日本が勝った」後で改めて確率を聞くと、20%よりもずっと高い確率で勝つことを予想していたと答える、というものです。

反対もしかりで、「日本が負けた」後で改めて確率を聞くと負ける確率が高くなるので、勝つ確率は20%よりももっと低くなります。

複数の選択肢がある場合でも同様で、A・B・Cという選択肢があるとき、結果がAと分かる前と後では「事前予想確率」が変わってしまうのです。

なお後知恵バイアスは特定の限られたシーンで起こるものではなく、政治・日常・医療・ギャンブルなどあらゆる状況で見られます。

後知恵バイアスが起こる原因

後知恵バイアスが起こる原因は、驚くような出来事が起こったときに「想定の範囲内だった」と考えることで、冷静な判断をサポートするための機能と考えることもできます。

極端な例ですが、たとえば家族に先立たれたとき。

そのことを全く予想していなかった場合と、少なからず予知していたと思い込んだ場合とでは、心が受ける衝撃はまったく異なります。

つまり、後知恵バイアスは心を守るための、精神的な防衛本能なのかもしれません。

後知恵バイアスの具体例

続いて、後知恵バイアスの具体例について見ていきましょう。

上司から部下への不当な評価

部下の失敗に対して、「だから私の言った通りにやればよかったんだ」と結果論で叱る上司は少なくありません。

もちろん実際に上司の指示が正しいケースもありますが、会社員なら上司の事前承認なしで進められることは少ないですから、上司も承認したからには「それでなんとかなる」と少なからず思っていたはずですよね。

ところが結果を見た後で、「自分は他のやり方のほうがよかったと思っていた」なんて考えてしまいます。

コロナ感染者や政府対応への批判

新型コロナウイルスの感染者に対して、「だから外へ出るなと言ったじゃないか」と憤る意見を見かけるようになりました。

特に顕著なのが、報道されるニュースの内容に応じて意見が変わってしまっているもの。

「若者がウイルスを媒介するケースが多い」という報道が流れれば「やっぱり若者は自粛せずに遊び惚けているんだ」と納得し、「老人は気にせず買い物へ行っている」という報道が流れれば「やっぱりお年寄りはそういうリテラシーや意識が低いんだ」と納得する。

どちらにせよ「だから」「やっぱり」と、まるでニュースを見る前から分かっていたように感じてしまっています。

またそのほかにも、一部では政府のコロナ感染対策に対して、「小中高校の臨時休校をしても感染者数が変わらなかったじゃないか」「だからやっても無駄だと言ったじゃないか」という批判が上がっているそうです。

これは後知恵バイアスだけの問題ではありませんが、結果論で物事を言っているという意味では同様の傾向があると考えて良いでしょう。

船舶事故に対する責任問題

後知恵バイアスの研究として、船舶事故が起こった際の責任問題について行われた実験があります。

ある船舶事故が起こった際、Aのグループには事故の事実だけを伝え、Bのグループには事故の事実に加えて損害の大きさを伝えました。

すると、AのグループよりもBのグループの人のほうが、「事故の予防措置を取らなかった人の罪を問うべき」とする人が多かったのです。

つまり、事故の大きさを知らない状態と知った状態とでは事故に対する印象が変わったということ。

これは前項のコロナ感染者や政府に対する批判も同様の傾向が見られます。

感染者数や死亡者数がはっきりする前はそこまで大きくなかったのに対して、感染者数・死亡者数がはっきりした途端に批判の声が大きくなったように感じるのは、気のせいではないでしょう。

後知恵バイアスの対策

コロナショックの前後で、自分がどんな印象を新型コロナウイルスに対して抱いていたか、なんて今振り返っても正確には思い出せないと思います。

後知恵バイアスを引き起こす最大の要因はこれで、つまり記憶があいまいだからこそ誤った記憶にすり替わってしまうのです。

そのため、後知恵バイアスを防ぐためには物事の前後で自分の考えをしっかりと記録しておくことが重要。

裏を返せば、記録に残っていない情報や記憶は一切信用しないというのが対策ともいえるでしょう。

後知恵バイアスの活用法

後知恵バイアスを知ったうえでうまく活用するなら、「まずは結果を出してから説得する」という考え方が大切です。

結果を出す前に説得するのは難しいですが、結果さえ出してしまえば人はむしろ「やっぱり上手くいくと思った」と後押ししてくれます。

「結果を出す前に説得する」のではなく「結果を出してから説得する」ことで、話が伝わりやすくなりますよ。

後知恵バイアスはそのほかにも、人の記憶はあいまいであり、都合のいいように簡単にすり替わるということを教えてくれます。

これはうまく活用することで、相手の評価がコロコロ変わることに対して動揺せずに済む、といった考え方も可能です。

前半でも解説した通り、後知恵バイアスは心の防衛本能のようなもので、無意識にその人自身の心を守っているにすぎません。

性格が悪いわけでも、いじわるをしているわけでもないのです。

まとめ

その他の認知バイアスと同様に、後知恵バイアスも意識して防ぐことの難しい認知のゆがみです。

防ぐためには記録する癖や習慣づけが必須で、組織で防ぐなら仕組みで解決したほうが賢明でしょう。

身近な人が後知恵バイアスにとらわれているなと感じたときは、それは心に防衛ラインを貼っているだけかもしれないので、不都合がないのであればそっとしておいてあげるといいかもしれません。