積極的傾聴という技法を知っていますか?カウンセリングやコーチングを行ううえで基本ともいえるスキルのひとつですが、近年は上司と部下が密にコミュニケーションを取るうえでこの傾聴の姿勢が重要として注目されています。
また、傾聴の姿勢はビジネスシーンだけでなく私生活においても非常に有用なものであり、身近な人と話すときに少し意識するだけで話し合いが円滑に進むことも珍しくありません。
そこで今回は、カウンセラーやコーチにとって基本スキルである積極的傾聴の姿勢について解説します。積極的傾聴とはなにか?どんなシーンでどのように役立つか?実践するためにどのような技法が必要か?といった内容を解説しますので、疑問をお持ちの方はぜひ参考にしてください。
目次
積極的傾聴とは
積極的傾聴とは、自分自身が感じた思いを理解しつつそれをいったん表には出さず、相手の身になって受け取り、その話者が実際に感じたように自分自身も感じることで理解する、というコミュニケーション技法のひとつです。
より端的に表すなら、「徹底的に相手の身になって耳を傾ける」という姿勢そのものと言えるでしょう。カウンセラーやコーチが扱う基本スキルであると同時に、彼らが真っ先に身につけるべき基本的態度のひとつでもあります。
日本ではビジネスシーンでも注目され、特に管理職研修で上司による部下の支援を強化する目的などで広く活用されています。
近年注目されている上司と部下が1対1で行う1on1ミーティングでも、この傾聴の姿勢が非常に重要です。傾聴の姿勢を学ばないまま個人面談に臨んでも、上司から部下への意見の押し付けになってしまうなどして思うような効果が得られないことが分かっています。
積極的傾聴に求められる姿勢とは
積極的傾聴はカウンセラーやコーチが備えるひとつのスキルですが、その根本にあるのはカール・ロジャーズが唱えた「来談者中心療法」というひとつの心理療法における考え方です。
来談者中心療法とは
来談者中心療法とは、まずカウンセリングに来た(来談した)勇気を認め、共感的・受容的にクライエント(相談者)を受け入れる、来談者のことを中心に考えて行われる療法のことです。
ロジャーズは、心理療法は個人のパーソナリティの成長にあると捉え、人間には本来自然な成長能力があると考えました。
その考えに基づく来談者中心療法では、カウンセラーから相談者へ指示することは基本的になく、相談者自身の考えや主張を徹底的に大切にします。
この療法はより多くの人に適応しやすく、また信頼関係も構築しやすいことから、多くのカウンセラーに支持されています。
積極的傾聴の根本にある「ロジャーズの3原則」とは
「ロジャーズの3原則(あるいは3条件など)」とは、来談者中心療法を唱えたロジャーズが掲げた原則のことで、受容・共感・自己一致の3つの態度がカウンセラーには必要だとしています。
- 受容(無条件の肯定的配慮)
- 共感的理解
- 自己一致
受容(無条件の肯定的配慮)とは
受容(無条件の肯定的配慮)とは、相談者の話や気持ちを無条件に受け止めるということです。
例えば「上司が口うるさくて……」と悩む人に対して、「それはあなたのためを思って言っているんだよ」と諭そうとするのではなく、「上司が口うるさいと感じているんだね」と、ただただ事実として受け止める姿勢のこと。
このとき大切なことは、「口うるさい上司なんだね」と決めつけの形で同意してはいけないということと、もし同意を求められるなど受け入れられないお願いをされた場合などは「わたしには分からない」「同意することはできない」といった形で、きちんと断る姿勢を同時に見せることです。
同意することはできなくても話を聴くことはできる、というのが非常に大切な姿勢です。
共感的理解とは
共感的理解とは、相手の立場になって物事を理解しようとする姿勢のことです。
なお「自分が相手と同じ立場だったら」と考えるうえで、自分をそのまま相手の立場と置き換えてしまうのはNGです。そうすると結局「自分だったらこう考える」となってしまい、これでは相談者の共感が得られません。
共感的理解を示すうえでは、徹底的に「自分」が「相手」だったら、と考える必要があります。そのため、ひとつの立場や浅い理解だけでなく、その人の生い立ちからこれまでの経験なども鑑みなければ深い共感を得ることはできないのです。
「自分がされて嫌なことは人にしない」などという言い回しも共感的理解のひとつと言えるかもしれませんが、これも浅い理解ではあまり意味がありません。いかに相手の経験や思考を深く理解できるかが重要です。
自己一致とは
自己一致とは、相談を受けるカウンセラー自身が自分自身についてよく理解していて、裏表なく、嘘偽りなく相談者と話すことができている状態を指します。
自己一致できていないカウンセラーと話していると猜疑心が刺激されてしまい、かえって精神的に不安定になってしまいかねません。
相談者が安心して話をするためにも、そしてカウンセラーを手本として自己成長していくためにも、自己一致は不可欠です。
積極的傾聴を実践するための10の技法
いよいよここからは、積極的傾聴を実際に活用するために役立つ10の技法について解説していきます。
4つのかかわり行動
かかわり行動とは、聴き手の積極的な傾聴の姿勢を相談者に示す手法の総称で、具体的には次の4つの行動のことを指します。
- 話し手と視線を合わせる
- 声の調子(大きさ、トーン、スピードなど)に配慮する
- 身体言語(身振り、手ぶり、姿勢など)に配慮する
- 言語的追及をする(話題を変えずについて行く)
話し手と視線を合わせる
話し手と視線を合わせることで、傾聴の姿勢を話し手へ伝えます。
このとき、じっと見つめるのではなく、上半身全体をまんべんなく見守るようなイメージでいると、相手に圧迫感を与えにくく、それでいてそのほかの体の様子にも注意を向けやすくなりますよ。
声の調子に配慮する
声の調子に配慮することで、今ここでどのような心情になっているのかを理解する一助となります。
特に、話している内容と声のトーン、スピード、声色などに乖離がある場合、その矛盾は心理的問題へのカギとなるかもしれません。見逃さないように配慮しましょう。
身体言語に配慮する
身体言語、いわゆるボディランゲージに注目することで、ちょっとした仕草から話し手の心情が読み取れることがあります。
自分を抱くような仕草を見せているときは恐怖していたり、表情は変わらずとも手先でなにかいじっているときは落ち着いていなかったりと、人間はいろいろな仕草で感情を表現しますのでぜひ注意深く観察してみましょう。
言語的追及をする
話し手の話に対して、答えやすい質問を適度に投げかけることで、より話しやすい状況を作っていきましょう。
次から次へと別の話題に移ってしまうと、今の話は興味がなかったのだろうか、と不安にさせてしまいます。
なお質問する際は、次の2種類の質問をうまく使い分けていきましょう。
- クローズクエスチョン:「はい・いいえ」で答えられる(閉じられた質問)
(例:今朝は朝食をとりましたか?) - オープンクエスチョン:「はい・いいえ」で答えられない(開かれた質問)
(例:今朝の朝食はどうされましたか?)
クローズクエスチョンはとても答えやすいですが、話があまり進展しないのが難点です。一方オープンクエスチョンは答えるのにエネルギーを使うので、あまり矢継ぎ早に質問されると疲れてしまいます。相手の様子に配慮しつつ、バランスよく使い分けていきましょう。
積極的傾聴の6つのテクニック
続いて、話し手の枠組みに沿って能動的にかかわりながら問題解決を目指す、積極的傾聴の6つのテクニックです。
- 沈黙
- 相づち
- 繰り返し
- ドア・オープナー
- 要約
- 気持ちを汲む
沈黙
積極的傾聴をするうえで、沈黙の時間は欠かせません。
相手のペースに合わせて待つことで傾聴の姿勢を示せるだけでなく、沈黙している間に話し手と聞き手がお互いの理解を深めることもできるなど、非常に大切な時間です。
日常会話では、少しでも間が空くとつい新しい話題を投じようとしてしまいがちですが、なるべく沈黙に慣れていきましょう。
相づち
適度に相づちを入れることで、話を聴いているということを話し手にきちんと伝えることができます。
相づちは言葉として入れるだけでなく、身体言語としても伝えることが可能です。
自信がない方は、鏡などを見ながら実際にうなずいてみてください。あまり興味深く聴いているように見えなければ、少し大げさにうなずいてみるなど、工夫するとよいでしょう。
繰り返し
リピート、オウム返しとも言いますが、相手の話をそのまま繰り返すだけでも、話を聴いているという姿勢を強く示すことができます。
また話し手に示すだけでなく、繰り返し言葉にすることで、聞き手である自分自身がより話し手に近づけるというのもメリットです。
このとき大切なのは「そのまま繰り返す」という点で、中途半端に自分の意見を差しはさまないよう注意しましょう。
ドア・オープナー
ドア・オープナーとは、心の扉を開くきっかけとなる言葉のことで、ビジネスシーンでは広告の文面などにも用いられます。
カウンセリングにおいては、表面的な話が続いたときなどに、「そのときどう思ったんですか?」と気持ちや考え、価値観と言った踏み込んだ部分を尋ねることで、心の扉を開くきっかけを作っていきます。
要約
話し手の話の内容を、かいつまんで要約することで話し手の自己理解を促します。
これは傾聴的姿勢の一歩先、その後の目標設定などに繋げるためにも重要なステップです。
ただし、「繰り返し」と同様に、聞き手の価値観や解釈が入ってしまわないよう注意しなければいけません。
ボディランゲ―ジを伝えることのできないメールカウンセリングにおいては、話者に対して話を聞いているという姿勢を伝えるうえで、要約が特に重要な役割を果たします。
気持ちを汲む
問題を解決することばかりでなく、あくまでも話し手に対して共感的理解を示すというのが「気持ちを汲む」という姿勢です。
夫婦間などで「妻はただ共感をしてほしかっただけなのに、夫が助言をしたことによってかえって険悪になった」といったケースがありますが、これは非常によくありがちなケースと言えるでしょう。
たとえ良かれと思った結果の提案だとしても、それが聞き手の価値観を押し付けるものであってはいけないのです。
まとめ
今回は、カウンセラーやコーチにとって基本中の基本のスキルとなる積極的傾聴について、基礎知識から実践で役立つ技法までをまとめました。
カウンセリングやコーチングを生業とする人だけでなく、ビジネスシーンや子育てなどでも役立つ姿勢ばかりですので、相手の成長を促すコミュニケーションを取りたいとお考えの人はぜひ積極的に実践してみてくださいね。