話しかけづらくて伝えられなかった。
ちゃんと伝えたはずなのに伝わっていなかった。
人がかかわり合えば、こうしたコミュニケーションエラーは必ず発生します。
「みんなが気を付ければ解決できる」と思っていても、コミュニケーションエラーやヒューマンエラーはそう簡単に無くなるものではありません。
そこで今回は、コミュニケーションエラーが特に起こりやすい看護職や介護職の現場において用いられている対策法をご紹介します。
2012年に行った調査によれば、コミュニケーションエラーに伴う健康被害を10%以上の医師・看護師が経験していたのだそうです。
エラーが原因で被害が起きるのは、医療の現場に限った話ではありません。コミュニケーションエラーを防ぐ仕組みづくりをしっかり学んでおきましょう。
参考当院におけるコミュニケーションの現状とコミュニケーション・エラー防止対策
目次
コミュニケーションエラーの原因
まずは、コミュニケーションエラーがなぜ起こるのか、原因から見ていきましょう。
コミュニケーションエラーの定義
コミュニケーションエラーとは、「言った言わない」問題に代表されるような狭義でのヒューマンエラーのことを指します。
コミュニケーションエラーには大きく分けて2種類あり、情報の伝達自体がされないコミュニケーション不足のケースと、情報が正しく伝達されない誤伝達のケースとがあります。
- コミュニケーション不足:情報伝達自体がされない
- 誤伝達:正しく伝達されない・伝達された情報が誤っている
コミュニケーションは「情報の伝達」と「伝達意図の理解」によって成立するので、このどちらかの段階で不足や誤りが発生すると、コミュニケーションエラーに繋がってしまいます。
コミュニケーションエラーの主な原因
コミュニケーションエラーの原因は、思い込み・誤解釈・誤情報・あいまいな伝達、つまり対話の不足です。
これらに加えて、看護や医療の現場でコミュニケーションエラーが起こりやすい原因としては、伝達情報の対象が人間であることにより情報の取得が難しいこと、知識の専門性が高く理解が容易ではないこと、労働状況の過酷さにより頭が働きにくいこと、などが挙げられます。
- 対話不足:思い込み・誤った解釈・あいまいな伝達
- 情報不足:情報が人の見方や時間の経過によって変動する
- 知識不足:情報を理解するために必要な知識の習得が困難
- 認知機能の低下:身体的疲労や精神的ストレスの蓄積により十分に頭が働かない
看護の現場に限らず、これらの要因が重なる状況ではコミュニケーションエラーが起こりやすいと考えたほうがよいでしょう。
コミュニケーションエラーの種類
コミュニケーションエラーには、次のような種類があります。簡単な事例を交えつつ確認していきましょう。
社会的手抜き:誰かが気づいてくれるはずだ
「誰かが気づいてくれるはず」と思い込むコミュニケーションエラーを、社会的手抜きと呼びます。
エラーを発見したにも関わらず、そのエラーに対して「他の誰かが気づく」と思い込んで対処しないことによって、さらに大きなエラーへと繋がるケースです。
看護の現場に限らず、たとえば道路にゴミが落ちているのを見て、「危ないなぁ……早く誰か片付けないのかな?」などと感じるのもこれにあたります。
社会的手抜きは職場・家庭・公共の場などあらゆる環境でひんぱんに発生するコミュニケーションエラーのひとつです。
同調:チェック済みなら間違っていないはずだ
たとえば掃除当番などをチェックリストで管理するケースにおいて、「前回のチェックで問題がなかったなら問題ないだろう」と、前任者に同調してチェックをおろそかにするのもコミュニケーションエラーの一種です。
ダブルチェックなどの仕組みを導入しても、なかなかエラーが減らない理由の一因はこの同調によるものと考えられます。
こじつけ解釈:何か理由があったはずだ
特に看護の現場で起こりがちなエラーで、普段とは様子の違う患者に対して「何か理由があるのだろう」と自分なりに解釈して見過ごしてしまうものをこじつけ解釈と言います。
本人もこじつけ解釈にうすうす気づきつつ、コミュニケーションを取ることへの苦手意識などから、無理やり自分を納得させてしまう傾向もあるようです。
言った言わない問題:伝えてあるはずだ
「こう言ったはずなのにどうしてやってくれなかったの?」
「いやそんなことは言われていない」
言った言わない問題は、情報の誤伝達の典型例と言えるでしょう。これに関してはエラーが起こってからでは信頼性のある証拠を求めるのが難しく、水掛け論になりやすい点が厄介です。
しかしそもそも大切なことは、犯人探しよりも再発防止に焦点を当てることでしょう。「どうやって証拠を見つけるか?」ではなく、「どう伝えればよかったか?」「確認する余地はなかったか?」を考えていくことが大切です。
コミュニケーションエラーの対策
続いて、コミュニケーションエラーをいかに防ぐか、具体的な対策法を解説します。
エラーそのものを減らす対策
誤伝達やあいまいな伝達の発生は、コミュニケーションというものの性質上仕方がないことであり、各自が気を付けるだけでは意味がありません。
そこで、次のような伝達の方法やフレームを定めて、仕組みで解決する必要があります。
4Cの原則:情報の誤伝達を防ぐルール
4Cの原則は、情報を伝達する人が、誤伝達を防ぐために守るルールです。
Clear(明確)・Correct(正確)・Complete(完結)・Concise(簡潔)の4つのCを満たす文章・言葉で伝えることを心がけましょう。
- Clear(明確):相手が理解できる用語。なじみ深い言葉。平易な文章。誤解のない言い回し。
- Correct(正確):適切な表現。明瞭な言葉。曖昧ではない。
- Complete(完結):必要な情報をすべて含める。不足なく、情報過多でもない。
- Concise(簡潔):短く簡単に要点をまとめる。不要語を避ける。箇条書きなどを適宜活用する。
チェックバック:正しく伝わったことを確認するルール
チェックバックは直訳すると復唱という意味で、対人援助の現場では復唱を「互いに確認する」ルールとして次のように運用しています。
大切なことは、「情報の復唱」だけでなく、それに対して「復唱を確認」する形で、メッセージを伝達した人もまた情報の伝達を繰り返しているという点です。
実際に運用する際は、情報の伝達・情報の復唱に対してお互いに「チェックバックをお願いします」と依頼するとよいでしょう。
2チャレンジルール:最低2回は伝えるルール
2チャレンジルールは、安全に関する重要事項や違反、誤りなどを発見した段階で確実に伝えるために、重要な提案は1回でなく最低2回は伝えるというルールです。
2チャレンジルールを導入する際には、「2回提案を受けた側はその場で応じること」といった取り決めを共通理解として持っておくことが求められます。
「AをBにしてください」
「AをBにしていいのですか?」※1度目の提案
「はい、AをBにしてください」
「BではなくCではないでしょうか?」※2度目の提案
「すみません、Cでお願いします」
ルールはもちろんですが、普段から気軽に情報を伝えあえる環境づくりがなによりも大切ですね。
CUS:重要事項を恐れず伝えるためのルール
CUSは、重要事項を恐れずに伝えるためのルールで、前項の2チャレンジルールと組み合わせて使うのが効果的です。
- I am Concerned → 「気になります」
- I am Uncomfortable → 「不安です」
- This is a Safety issue → 「これは安全上の問題です」
「AをBにしてください」
「AをBにしていいのですか?」2チャレンジ1度目の提案
「はい、AをBにしてください」
「BではなくCではないでしょうか?」2チャレンジ2度目の提案
「いえ、Bで大丈夫です」
「いつもと違う様子も気がかりで、Bでは不安です。危険ではないでしょうか?」※CUS
「分かりました、Cにしましょう」
2チャレンジに加えて、「気になる」「不安である」「危険である(安全上の問題である)」ことを合わせて伝えることで、より提案に相手が対応しやすくなります。
エラーが発生しても事故に繋げないための対策
コミュニケーションエラーの種類で「社会的手抜き・同調・こじつけ解釈」の3つをみると分かる通り、エラーが事故に繋がるのは「気づいていながらもコミュニケーションを取らなかったこと」が主な原因と考えられます。
そのため、エラーそのものを起こさない対策に加えて、エラーが起きても事故に繋げない対策として、コミュニケーションそのものの動機付けを強化することが効果的です。
コミュニケーションに対する動機付けを強化する際には、単に話し合う機会を増やすだけでなく、話すことが自分にとって不利益に繋がらないという心理的安全性の確保が求められます。
心理的安全性を高めるための対策としては、たとえば次のようなものが考えられます。
- 発言機会を平等に与える
- 競争よりも協力を
- ポジティブ思考を意識する
- 上司が部下を尊重する
- 付加価値の高い1on1を実施する
- チームで新人社員をサポートする
- 発言が不当に評価に繋がらないことの約束
心理的安全性を高めるには、個人でなく組織で取り組むことが大切です。
組織における話からはやや逸れますが、夫婦間における心理的安全性を高める方法について、こちらのコラムで考察しています。
まとめ
今回は看護の現場において用いられるコミュニケーションエラー対策法を紹介しましたが、これらの手法はどのような状況においても役立つものです。
家族や友人など、親しい間柄ほど伝える努力を怠ってしまいがちですので、ぜひ積極的なコミュニケーションを心がけていきましょう。