口論になると一方がすぐに黙ってしまい、議論にならない。それは、性格の問題ではなく、心理的安全性の低さが原因かもしれません。
そんな状況に悩んでいる方のために今回は、Googleの掲げる心理的安全性の高め方を踏まえて、夫婦の心理的安全性を高める方法を解説します。喧嘩どころか、会話の応酬すらままならないという方はぜひ参考にしてください。
目次
心理的安全性とは
まずは、心理的安全性という言葉に関する基本から押さえておきましょう。
心理的安全性の定義
心理的安全性の提唱者であるエイミー・エドモンドソン氏は、「チームの心理的安全性」を、「対人関係においてリスクのある行動をしてもこのチームでは安全であるという、チームメンバーによって共有された考え」と定義しました。
つまり、その組織・チームのなかで、意見・提案・依頼といったリスクのある行動をとったときに、どの程度の危険性がある(とチームメンバーが思っている)か?を示したもの。
ひとことで言うなら、「ありのままの自分でいても大丈夫と思えるかどうか」です。
勘違いしてはいけないのは、心理的安全性が高い=馴れ合う関係ではないということ。
たとえば、「Aさんのプレゼン内容に不備があったので伝えよう」と思ったとき、心理的安全性が低い状態と高い状態とでは次のような違いが生まれます。
- 心理的安全性が低い状態:めんどうなやつだと思われたらいやだから伝えない!
- 心理的安全性が高い状態:組織の生産性向上のためにも伝えるべきだ!
なお近年、心理的安全性という言葉が注目された背景の一端には、Googleが「効果的なチームに不可欠な要素」として心理的安全性を掲げたことが挙げられます。
参考「効果的なチームとは何か」を知る|Google re:work
心理的安全性が低いことで起こる問題
心理的安全性が低い状態では、意見・提案・依頼といった行動がネガティブな感情に直結してしまっており、自由な発言や自由な行動が取れなくなります。
- ネガティブな感情:馬鹿にされる・非難される・恥をかく・迷惑をかける、など
これによってチーム全体で各メンバーのアイデアや進捗が共有できなくなるだけでなく、ミスをしたときに非難されることを恐れて、過失を隠蔽しようとするケースも。
特に日本の教育環境は、心理的安全性が低くなりやすいことが懸念されています。
個を尊重するのではなく、周囲と同じ結果を出すことを求められるので、「ありのままの自分でいても大丈夫」とはなかなか思うことができないのです。
また、大声を出すことや泣くことが周囲の迷惑になるからと、「泣いてはいけない」と感情を抑制されて育つことが、毒親・アダルトチルドレンといった心理的な問題の引き金にもなっています。
心理的安全性が高いことで得られるメリット
心理的安全性が高くなると、精神的な負荷がなくなるだけでなく、純粋に本来であれば出すべきだった意見が順当に出るようになるので、組織としての生産性が向上します。
さらに優秀なメンバーの退職リスクも低減され、課題の早期発見にも繋がります。
そのためビジネスパーソンから、しかも部下を持つ人々から「次世代のマネジメントスキル」としてこの言葉が注目されているのです。
これを夫婦間でとらえるなら、たとえば家庭で心身ともに疲弊せずに済むようになるので仕事のパフォーマンスがあがり給料が増えるとか、口論に割いていた時間が不要になるので余暇が増える、といったところでしょうか。
そしてもちろん、子育てをしているなら子どもにも好影響を与えます。
チーム内の心理的安全性を確かめる7つの質問
心理的安全性を高める方法に入る前に、現在のチームにおける心理的安全性が高いと言える状態なのか、それとも低い状態なのか、確認しておきましょう。
確認する方法として今回は、心理的安全性の提唱者であるエイミー・エドモンソン氏が使われたという方法を紹介します。
チームの心理的安全性がどの程度のレベルであるかを調べる際、エドモンソン氏は、次の7つの質問が自分自身に強く当てはまるかどうかをチームメンバーに尋ねるそうです。
少しややこしいのが、「はい/いいえ」ではなく、各回答に「ポジティブに答えるかネガティブに答えるか」で判断するという点。
- ネガティブな回答例:非難される→YES、指摘し合える→NO、拒絶することがある→YES、安全である→NO、助けを求めることは難しい→YES、など
ひとつでも当てはまっていれば心理的安全性が低いと考えられますので、いくつ当てはまるかどうかよりも、心理的安全性について考えるきっかけとして使うのがよいでしょう。
夫婦の心理的安全性を高める方法
前置きが長くなりましたが、ここからはいよいよ夫婦で心理的安全性を高める方法について解説していきます。
今回は、Googleの掲げる心理的安全性を高める方法のなかでも、夫婦という最少人数のチームで活かせる内容を参考にしつつ、実体験を踏まえて下記の7つにまとめました。
ひとつずつ解説していきます。
いっしょに過ごす時間を増やす
まずは、お互いいっしょにいて当たり前、と思えるまで夫婦でいっしょに過ごす時間を増やしましょう。
夫婦になったからには一蓮托生、パートナーがお互いに体の一部だと思えるくらいの時間が必要です。
ささいな言動がうっとうしく感じたりするのは、それが体の一部としてなじんでいない証拠。メガネだってずっとかけていれば、フレームが視界に入っても気にならなくなるものです。
これは精神論ではなく、単純接触効果などの心理効果にも表れている通り、「いっしょにすごす時間が増えると相手のことを好きになりやすい」と言えます。長い時間いっしょに過ごすことで、この人といっしょにいても危険はない、と体が覚えるんです。
大切なことは、「いっしょにいる時間をがんばって増やす」のではなく、「いっしょにいざるを得ない時間を増やす」イメージ。
ごはん・お風呂・寝るタイミングを無理やりにでもそろえる習慣を作って、二人でいっしょにいるのが当たり前、という状況を作っていきましょう。
夫婦で入浴する習慣作りには、「夫婦でお風呂に入るメリットと入浴時間を楽しくするコツ」のコラムも参考にしてください。
また、あえて夫婦でせまい部屋に住むというのもひとつの手です。興味のある方は、「夫婦ワンルーム二人暮らしを1年続けて分かったメリットとデメリット」もどうぞ。
価値観の違いはすぐにすり合わせる
価値観の違いをそのままにしておくと、あらゆる喧嘩の原因になってしまいます。
金銭感覚や子どもを産むことに対する感覚の違いなど、価値観が違うな?と少しでも思ったら、そのタイミングですぐに話し合うクセを付けましょう。
話し合うときのポイントは、お互いに価値観を押し付けるのではなく、違っていて当たり前という感覚をもって臨むことです。
たとえ夫婦でも価値観がまったく同じということはあり得ないので、どこまでは違っても許せるのか、どこまでは許せないのか、それを確かめるための話し合いであることをお忘れなく。
「夫婦の価値観の違いを乗り越えるコツ」はこちらのコラムをご覧ください。
喧嘩をどんどんする
喧嘩をしないようにするのではなく、喧嘩になっても大丈夫と思えるように、仲直りの仕方を学ぶことが大切です。
これは実際に研究結果もでていて、喧嘩をしない夫婦よりも喧嘩をする夫婦のほうが、離婚のリスクが低く、結婚生活に対する満足度が高いのだそう。
重要なのは、小さな喧嘩をしっかり繰り返して、そのたびにきちんと仲直りするということです。
そのためにも、たとえば価値観の違いを感じたらすぐに伝えて、その場では喧嘩になったとしてもその後しっかり仲直りする意識を持って喧嘩に臨む。
このサイクルができれば、このチームではリスクを取っても問題ない、という認識を徐々に刷り込ませていくことができます。
研究の詳細と、具体的な仲直りのコツは「喧嘩するほど仲がいいは本当?論文から学ぶ喧嘩の仕方と仲直りのコツ」をご覧ください。
生理中などの対応を話し合っておく
どちらかが病気になったときや、あるいは妻が生理・妊娠中といった特殊な状況においては、どうしてもうまくいかないことが増えます。
特に生理に関しては、基本的に毎月決まったタイミングでやってくるものだからこそ、事前に対応を考えておくことが大切です。
それも、お互いが別々に考えるのではなく、「生理がやってきてイライラし出したらそのことを伝える」など、簡単にでもルールを決めることが非常に重要。
そして夫のほうは、生理がどういったものなのか、体験できないからこそ知識を身につけることが必須です。
下記記事では、夫である私の目線から生理中の妻との対応法などについて説明しています。
医学に関しては素人の解説ではありますが、だからこそ伝わりやすい部分もあると思いますので、生理の仕組みなどをよく知らないという方はぜひ一度「妻の生理イライラ期に夫が取るべき8つの対策」をご覧ください。
話し合いの7つのルール
いっしょにいる時間を増やしたり、話し合いの機会を増やしたりすることができても、どちらか一方でも話し合いの作法を守らない人がいれば、話し合いがそもそも成立しません。
夫婦で話し合うときには、次の7つのルールをお互いに認識したうえで話し合いに臨むことが重要です。
これらはすべて、心理的安全性を損ねないためのルール。守れないのであれば、すなわち心理的安全性が脅かされているということです。
それぞれの詳細と、なぜ夫婦に話し合いが必要なのか?については、「夫婦で話し合うときに守りたい7つのルール」というコラムの中で詳しく解説しています。
話を聞くときの8つのマナー
普段の会話は、愚痴や相談、あるいは雑談の形で、どちらかが一方的に話をすることも多いでしょう。
そんなときの、上手な話の聞き方を心得ておくことも有効です。
心理的安全性の確保には、「ちゃんと聞いてもらえている感覚」がとても重要になります。
そのため、2~8はすべて、相手の話をきちんと聞いていることを伝えるためのもの。一方で、1つ目の「真剣に聞こうとしないこと」というのは、話にのめり込みすぎないためのルールです。
こちらもそれぞれの詳細は「妻の話の上手な聞き方」で解説していますので、上記を見てもピンと来ないという方はぜひご一読ください。
感謝や褒め言葉を形にして伝える
心理的安全性に限らず、感謝することの大切さや、褒めることの大切さが近年注目を集めています。
確かに褒め言葉は心理的にポジティブな影響を与えることがあるのですが、一方でネガティブな影響を及ぼすことも認識しておかなければいけません。
ネガティブな影響とは、それが条件付きの愛情になってはいけないということ。
条件付きの愛情とは、「頑張ったから愛してもらえる」という心理のことで、「頑張らなければ愛してもらえない」という依存心を育ててしまいます。
これは裏を返せば「愛してもらえない(感謝されない・褒められない)行動はとるべきでない」という判断に繋がってしまうのです。
そこで大切なのが、特定の行動に対して感謝・褒め言葉を伝えるのではなく、日ごろからあらゆることに対して伝えていくという意識。
具体的にどんな風に伝えていいか分からないという方は、ぜひ下記コラムもご覧ください。
>>妻への感謝の伝え方10パターン【手紙・写真・肩たたき・プレゼント】
まとめ
夫婦の心理的安全性を高める重要性や、夫婦の心理的安全性を高める方法について解説しましたが、参考になる話はあったでしょうか。
全体を通して言えることは、心理的安全性を高めるためには「たまに」ではなく、「いつも」の言動を工夫していく必要があるということです。
お礼の言葉を伝えるにしても、「たまに伝える」のではなく、「いつも伝える」。これがあるかないかで、夫婦間でリスクを取ることへの意識はだいぶ変わるでしょう。ぜひ夫婦でごいっしょに取り組んでみてください。